ケイト・デンソンの伝承
ケイト・デンソンは人々を明るい気分にさせるために曲を書いていた。スポットライトを浴びることも名声を得ることも、ファンと築いた絆に比べれば取るに足らないものだった。ギターを手にケイトは恋愛や友情、家族愛について歌い、人けのない森の木立で曲作りに励んでいた。だがそれは以前までの話だ。ここのところ、暗くて不穏なメロディーばかりが浮かんできては、彼女の頭の奥深くに潜り込んでくる。実際は異世界のメロディーであるそれを彼女は止めたいと願うものの、心地よさは否めない。
ステージで演奏した思い出が原動力のケイト・デンソンにとって、追い詰められた状況で優雅にふるまうことはお手の物だ。いつでも楽観的で、確固たる独立心を持つ機敏なソングライターは、バックバンドのメンバーが安全なグランドフィナーレを迎えるまで止まらない。